第四編 民俗
第二章 衣・食・住
第二節 食事
 三  禁忌食物

宮内と卵
 『伯耆民談記』の倭文神社の項に、「氏子の人禽獣の肉を食はず、押て食する時は、忽ち病脳を発す」とある。現在は古老に尋ねても、この伝承は伝わっていないが、鶏卵を食べない風習は昭和初期まで残っていた。
 鶏や鶏卵を食べないとする禁忌をもつ神社に島根県美保関神社がある。同社の祭神は事代主命〈ことしろぬしのみこと〉であり、この神が倭文神社にも祀られていることから、このような禁忌の習俗が伝承されたものと思われる。事代主命が美保関で釣りを楽しんでいると、突然鶏の鳴き声が聞こえた。驚いた命は持っていた櫂〈かい〉を流してしまった。仕方なしに手足で水をかいていると、フカが足にかみついたという。この故事から、美保関神社では鶏は不吉なものとされている。
 また、鶏は神の使いとされる場合もあるので、そのためかもしれない。国宝の経筒が出土した一ノ宮経塚には、全国的に数多い金鶏伝説が伝わっている。
   
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