第2編 歴史 第2章 中世 第2節 鎌倉・南北朝時代 1 東郷荘 目印としての樹木 さらに黒田日出男は、長江沖で小船を操る漁師を、東郷池の漁業活動の絵画表現とみた上で、長江と耳江の中間に直立する杉の巨木、一ノ宮側の湖岸に描かれた一本松などは、いずれも東郷池の漁場の境界を定める目印・目標物であったと推定している(「荘園絵図の世界」平凡社『月刊百科』244号所収)。これらの樹木が何らかの目印・目標物であったと推定することに異論はないが、これらを結ぶ線が漁場の境界であったかどうか、論のあるところである。 近世以降、東郷池の漁業権の縄張りについての争論の事例が見当たらないことから類推して、漁業権は沿岸漁民が共有したとみることもできよう。渡辺久雄は、これらの樹木などを絵図作成のための測量基点と想定している(「松尾神社領伯耆国東郷庄の一考察」『歴史地理学紀要』一〇号所収)。 なお、荘園図に人物が描かれているのは、我が国唯一の例であるといわれる(難波田徹編『日本の美術72号古絵図』)。 |
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