第2編 歴史
第4章 近代・現代
第5節 農林水産業
 1  農業
(1) 農業の概観

東郷報徳社の倉庫経営
 町域内では、東郷報徳社(次節「商工業」参照)が松崎駅に近い現・農協生活センターの辺り(中興寺400番地)に設けた倉庫が知られる。後述する『東郷湖畔めぐり』は、明治43年4月に同社が米券倉庫を設置したと記録する。米券倉庫とは、前項で述べた米券を発行して米穀の保管などを行う倉庫の意であろう。
 その後、大正八年には農業倉庫に改められた(『同書』)。これは、同六年に公布された農業倉庫業法に基づくものであった。同法によって農業倉庫は、農家の生産した穀物、菜種、繭などの受託物の保管を本業とし、そのほか農業倉庫証券を担保にした金融業、受託物の改装、荷造り、販売などもされるとされた。またその事業は営利を目的としてはならないとされ、事業主体も産業組合(注一)、市町村、農業の発達を目的とする公益法人などに限られた。
 東郷報徳社はのちに社団法人になったことが知られるが、農業倉庫の経営の詳しい実態は明らかにできない。昭和四年度の同社「財産目録」(高辻・山本重雄所蔵)によると、当時四棟の倉庫のほか、加工場及び事務所の二棟があった。その後、昭和五年十月、「有限責任販売購買利用組合報徳社農業倉庫」(注二)の設立が認可された。鳥取東郷農業協同組合所蔵の「東郷信用組合定其他綴」によると、生産物の販売、資材の購入、設備の利用など組合員の利便を図るほか、社団法人・東郷報徳社の農業倉庫を譲り受け、倉庫業(注三)を経営する産業組合組織であった。初代組合長・市橋康雄(小鹿谷)が倉庫長を兼務した。
 なお、この組合は後に組織替えをされたが、農業倉庫の業務は継承された(後述する「東郷信用購買販売利用組合」の項を参照)。このうち、昭和五年から十八年までの米の入庫数を表51に掲げておく。政府米とは、大正十年の米穀法施行に伴って農業倉庫に保管された政府管理米のことである。
 (注一) 産業組合とは、明治三十三年に農業、工業など中小生産者の救済を目的に公布された産業組合法に基づく組織。組合員の相互協力によって、産業・経済の発達を図った。特に農村部で普及した。戦後に設立された協同組合の前身である。
 (注二) 産業組合の組織には無限責任、有限責任及び保証責任の三種があった。無限責任組合は組合財産をもってその債務を完済することができない場合に、組合員の全員が連帯して無限の責任を負担し、有限責任組合では、組合員の全員がその出資額を限度として責任を負担し、保証責任組合は、組合員の全員がその出資額のほか一定の金額を限度として責任を負担する組織であった(産業組合法)。
(注三) 前掲「東郷信用組合定其他綴」によると、昭和五年の創立当時、農業倉庫の保管料として玄米一俵平均十五銭、入庫米手数料一俵当たり4銭などが徴収されている。

表51 松崎駅前・農業倉庫の米穀入庫数量
期間
数量
所管団体
年 月 日 年 月 日
  
昭和5.4.1〜6.1.31
14,492
(社団法人)東郷報徳社
(有限責任)販売購買利用組合報徳社農業倉庫
6.2.1〜7.1.31
15,560
(有限責任)販売購買利用組合報徳社農業倉庫
7.2.1〜8.1.31
12,787
8.2.1〜9.1.31
14,073
9.2.1〜9.12.31
9,405
6,433政
(保証責任)東郷信用購買販売利用組合
10.1.1〜10.12.31
10,467
11.1.1〜11.12.31
10,174
1,493政
12.1.1〜12.12.31
不明
13.1.1〜13.12.31
11,340
14.1.1〜14.12.31
7,993
2,000政
15.1.1〜17.12.31
不明
18.1.1〜18.12.31
8,712
10,138政
(注) 政は政府米の数である。
   鳥取東郷農業協同組合所蔵「御届報告書綴」を基に作成した。

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