第2編 歴史
第4章 近代・現代
第6節 観光
 1  温泉街の発展

概観
 東郷湖中から湧〈わ〉き出る温泉は、江戸時代から知られていた。天保14年(1843)4月に、松崎の各町惣代組頭4人が、連名で湖心の温泉汲〈く〉み上げを藩に願い出た記録がある(「近世」の章を参照)。
 しかし、温泉旅館の創業は明治以降である。多くの文人墨客の来訪が伝えられ、当地で一番のしにせである養生館(口絵写真を参照)は明治17年の創業であった。また、養生館の創業以前から、「龍湯〈りゅうとう〉」に温泉場のあったことも知られる。風光明媚〈び〉な湖畔の宿で、明治時代から湯治客、遊興客のにぎわいを見せていたのである。
 その後、大正末期に、地質学者が東郷湖周辺での温泉資源調査を実施している。これ以後、松崎駅前周辺で新しい泉源が次々と発見された。折からの旅行ブームにも乗って旅館創業が相次ぎ、松崎温泉が誕生する。東郷温泉を名乗る養生館とともに、湖畔情緒にあふれる湯の町として発展してきたのである。
 以下、当地の温泉街の発展を概観する。その記述の多くは、温泉史研究家・立木惇三(松崎)の提供資料によった。
 なお、太平洋戦争下に、当地の旅館が疎開児童や戦傷兵の収容施設とされたこともある。詳細は前節「戦争と災害」を参照されたい。
   
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