第四編 民俗
第三章 生産・生業
第一節 農業

一毛田の田ごしらえ
 一毛田とは、排水が悪くて麦などの裏作ができない湿田をいう。東郷湖周辺にはこのような田が多くあった。特に、野花・引地・藤津・宮内の湖畔の田には、人が入ると腰の辺りまで沈むひどい湿田があった。これらの田は牛耕ができないので、すべて人力に頼った。六月上旬ごろ、三ツ目ぐわで田土を一くわずつ打ち起こし、さらに小さく砕いて田植えの準備をした。
 同じ湿田でも門田の田は状態がよく、牛を使うことができた。天候が安定し田が乾く四月下旬ごろから、牛にすきを引かせて耕起する「荒起こし」が始まり、このころから本格的な春の農作業に入った。荒起こしした土くれを唐ぐわやあんぐわ、あるいは三ツ目などを使って砕いたが、石のようにカチカチに乾いた土くれを砕くのは重労働であった。しかし、土がよく乾いた年は豊年だと昔からいわれていた。昭和十年ごろ、牛に引かせて土を砕く砕土機を使うことが始まり、労働の軽減に役立った。
   
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