第2編 歴史

第1章 原始・古代

第4節 古墳時代

2 町内の概観

 

海洋族の考察

 東郷湖の周辺では、海の神や航海の守護神などを祭神とする神社が点在する。前述したように、これらの神が古代共同体の信仰の対象であったとすれば、弥生・古墳時代の昔から、日本海を舞台にして海上交易に活躍した部族があったと考えられる。ここでは東郷湖周辺の海洋族について触れてみたい。

かつての海洋族などが祀った海の神や航海の守護神は、阿曇(あずみ)・宗像(むなかた)・住吉系の3つに大別される。

 阿曇一族の祭神は、海の神・少童(わだつみ)(綿津見とも書く)である。阿曇は、海人の部族を率いて航海・漁業に従事し、「倭奴(わのなの)国王」の金印出土で知られる北九州・志賀島を根拠地としたといわれる(一説に、大阪・摂津の難波を根拠地とする)。宗像は、かつて朝鮮との交易に重要な役割を果たした北九州の豪族で、田心(たごり)姫命、端津(たぎつ)姫命、市杵島(いちきしま)姫命を祭神とする。また住吉(大阪・住吉大社)は、神功皇后の創建と伝えられ、航海の守護神・筒男(つつお)を祭神としている。

 町内では、次のような3系統の海に関する神が祀られていた。

 阿曇系 長江神社・藤津神社・宮内の早稲田神社(いずれも底津少童命(そこつわだつ

みのみこと)・中津(なかつ)少童命・表津(うわつ)少童命)

 宗像系 旧引地神社(市杵島姫命)、旧長和田神社(田心姫命)

 住吉系 旧別所神社・長江神社・埴見の籠守神社(いずれも底(そこ)筒男命・中(な

か)筒男命・表(うわ)筒男命)

鳥取県神職会刊『鳥取県神社誌』によると、前記の神を祀る県内の神社数は町内のもの

を含めて、阿曇系16社、宗像系44社、住吉系19社を数える。倭文神社に祀られている下照姫の母は宗像系とされる。このほか、羽合町橋津の湊神社には、速秋津彦(はやあきつひこ)命・速秋津姫命(港の神)が祀られている。

 これらの祭神名があることから、古代の海洋族が東郷湖周辺にもいたことが推定できよう。馬ノ山4号墳、宮内・狐塚古墳、野花・北山1号墳など大型の前方後円墳を築いた首長級豪族は、日本海を活躍の場として交易し、富を蓄積したものと思われる。

 なお、羽合町の長瀬高浜遺跡では、磯(いそ)釣り用ではなく、明らかに沿岸漁業用と推定される大型の釣り針が十数本のほか、直径2.5センチメートル前後の小型の素面鏡(凸面鏡)が出土している。西村彰滋の前掲「鳥取県羽合町長瀬高浜遺跡」は、同様な鏡が出土している福岡県沖ノ島などの例から、海もしくは航海に関する祭事用具であろうと推定している。

 さらに、同遺跡からは古墳時代前・中期のものと推定される巨大な高床式の掘っ立て柱建物跡が発掘された。玉垣に似た柵列跡がみとめられることから神社形式の建物跡とされるが、一説には魚見やぐらの跡と考える学者もある。こうした遺跡・遺物からも、東郷湖周辺に住んだ古代人の漁業活動あるいは神社信仰のあったことが想像される。


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