区民に心から愛されるダキ 

 宇野の東端にある「南無妙法蓮華経」と刻まれた巨岩と、地蔵3体を祭る法華堂。そこから流れ出るわき水は、古来から生活用水に利用され、上水道が完備される昭和40年代半ばまで、台所用水として宇野区民に重宝されていました。
 このほど「宇野地蔵ダキ」が選ばれた「平成の名水百選」は、地域住民などによって主体的に保存活動が行われているわき水を、昭和60年の「昭和の名水百選」に加え、新たに環境省が認定したものです。
 「宇野地蔵ダキ」の近くに住む人たちは、戦前から「宇野地蔵ダキ保存会」を結成し、毎日のように周辺の清掃や花などのお供えをしています。保存会の米沢義隆さんは「ほったらかしにすると、すぐに藻が生えてきたりします。いつだれが見てもきれいだと言ってもらえるように、掃除は欠かさないようにしています」と語ってくださいました。
 毎年宇野では、「地蔵盆まつり」を地蔵ダキ周辺で行っており、古くから伝わる「宇野三ツ星盆踊り」を区民総出で踊ります。平成16年からは、名水を後世に守り伝えていこうと、「宇野地蔵ダキまつり」が同時開催されるようになりました。
宇野の誇りはわが町の誇り
 
 1日に約70トン流れ出るわき水はカルシウムを多く含んでおり、「甘みがあり、くせがなくておいしい」と評判です。昭和60年に鳥取県の「因伯の名水」に選定されて以来、町外から水をくみに訪れる人が増えています。
 町内唯一の蔵元「福羅酒造」も、酒造に地蔵ダキの水を利用しています。同酒造の清酒「山陰東郷」は、過去10年間で、鳥取県新酒鑑評会で知事賞を四回、全国新酒鑑評会で金賞を6回獲得した名酒。昨年から杜氏を務める一級酒造技能士・福羅隆元さん(松崎二区)は、水をこう評価します。「酵母を増殖させる『酒母』という、本仕込の前段階の工程で、地蔵ダキの水を使用しています。酒母は酒の質を決める重要な工程。地蔵ダキの水は”強い“ので、酵母がよく増えます」。 
 名水百選の認定を受けて、本田齊区長は宇野地蔵ダキへの思いを、次のように語ってくださいました。「地蔵ダキは区民の生活と密接な関係があり、地域の宝です。わたしも子どものころから親しみ、一緒に大人になったようなもの。子どもたちが将来、自慢できるような地蔵ダキであってほしいです。今後は、町とともに、観光面などでの地蔵ダキのあり方を話し合っていきたいと思います」。

仕込みを行う福羅さん(写真左)と清酒「山陰東郷」(写真下)

宇野にある国の名勝「尾崎氏庭園」で知られる尾崎邸の井戸水は、地蔵ダキと同じ水脈のもの。井戸水は庭園にある池に流れ出ています